LOVEDUM
「待たンかこの猿うううぅうぅぅぅぅぅ〜っ!!」
叫び声(と言うか奇声に近い声)を上げながら、少年は其れを追っていた。
手にしているのは少年に似つかわしくない燻銅の機関銃で、追いかけられている相手はある意味逃げて正解な気がする。
寧ろ逃げなきゃ殺される事は間違い無いだろうから、必死になって短い足を前後に動かしていた。
少年はまだ叫び続けながら、しかし段々と走るスピードを上げて、モンスター・ぬすっともんきーに追いついていく。
銃口がぎらりと太陽に反射し、ぬすっともんきーの後頭部を焼く。けれども彼にとって恐ろしいのは、その穴が火を吹く事だ。
だから必死になって逃げる。命在ってのモノダネだ。
「お前アクティブだろ何で逃げるンだ堂々と立ち向かって来おおぉぉぉぉおいっっ!!」
そんな事一息に言われたってと言わんばかりに、彼は少年から逃げる。走って走って、途中無謀にも立ち向かおうとした仲間が次々に倒れていく姿を後ろに、冥福を祈りつつ結局は逃げる。
俺は絶対に逃げ延びるから、と背中が語っているように思えた。
そんな逃走劇を横目に見ながら、青年は近寄ってきたモンスターを一瞬の内に掻き消した。
他愛も無い動作。冷たく見える翠の眼が、息絶えた『物質』を捕らえる。
「どうせならばもう少し、知恵をつけて居ればよかったものを。そうすれば、オマエは肉隗には成らずに済んだのだ。」
吐き捨てる。けれど其れは愛故の言葉。
青年は一度として彼らを貶めた事は無かったがしかし、容赦もしないのだ。来るならば、完膚なきまでに。
ふと顔を上げれば、逃走劇の役者が此方に向かってくる。条件反射で身構え。
「あ、ドラゴンの兄サン、ソイツ捕まえてくれ!」
少年に行き成り言葉を掛けられた事への戸惑いの所為で、一瞬で高められていた魔力は、総て見当はずれな場所に散逸してしまった。
慌てて軌道修正しようにも、時、既に遅し。
「うわ、ぁっ!」
まるでそうしなければいけない様に言葉を漏らし、青年は解放された魔力を制御出来ず、まるで雨のように青年と少年とモンスターの周りに降らせた。
それらは勿論光の矢となって、詠唱者達を貫いていく。
耐え切れずにモンスターは灰と成り、青年は顔を庇いつつ方膝を地面についた。少年はと言うと、慌てて護符らしき物で周りを固めてはいるが、しかし何時まで持つか。
「う、ぐぅ…っ!」
呻き声。是は青年のものだ。【流るる光矢達】は三十秒ほど続き、けれども何とか冷静さを取り戻した青年が、暴れまわる魔力を押さえ込み、事態は何とか収拾した。
その後直ぐにオフィシャルが駆けつけ、結局青年も少年も三日間の謹慎処分を言い渡されたのだった。
謹慎と言っても、結局の所狩をするなと言うだけなので、実際には羽休めな意味合いもある様に青年は思う。
だが、何故自分はこんな事になっているのだろうか。青年は自分では理解出来ない状況に、今置かれていた。
「ドラゴンの兄サン、やっぱり強いンすねー。その上予想通り金持ちと来た。」
「いや、だから何故、御前は私と行動を共にするんだ。」
嫌だなー、オレは兄サンの所為で謹慎喰らってるンすぜ?と、そう言われてしまっては青年に勝ち目は無かった。
確かにアレは完全に自身の落ち度である。例えその原因がこの少年が声を掛けたという事だとしても、だ。
一流の呪術師は、あんな事では冷静さを欠いて魔力流出などと言った馬鹿げた事等起こしはしない。他は知らないが、少なくとも呪術師として育ててくれたグランパはそうだった。
だから、この少年が自分に纏わり付くのを邪険には扱えないのだ。ある意味自分の犯した『罪』の具現でもあるのだから、反省・自重するという意味では彼が居る事は精神的な修行になるかもしれない。
「…御前、名は。」
「マルバス・ラーディステン=イーステルダム、ッすよ。」
「…ダンデインの公爵級か。」
「序に言うとオレ、兄サンと初対面じゃないンすぜ?」
しかし青年はマルバスに見覚えなど無い。遠い記憶を辿ってみても彼の顔と名は出てこなかった。と、言うかモヤモヤとして思い出したくない気がした。
首を傾げる青年を見て、マルバスは少し哀しそうな顔をした。が、直ぐにニコニコとした顔に戻り、なら、改めて宜しくッす、と手を出した。
多分是は握手を求めているのだろう。しかも話の内容を見ると、彼はこのまま自分に付いて来る気らしい。
流石に其れは困るので、手を払っておく。すると、彼はその行為に対して、大声で笑い出した。
勿論、青年は嫌味の一つでも言われるだろうと覚悟していたので、拍子抜けして柄にも無く口を開けて少年を見た。
尚も続く笑い声に、周りのものは何があったのかと時々此方を振り返る。非常に恥ずかしくなったので、青年は簡易住居を出して彼を其処に放り込んだ。
直ぐに自分も入り、入り口を封鎖。其処までして、やっと青年は一息つく。
何時も一人の場所に誰かが居るのは居心地が悪いが、外で俯きつつ話すよりはマシだと思った。
「あははははっ!兄サン全く同じ事してるッすよ!!」
「…其れは、昔御前にあった時の事を言っているのか。」
笑いながら必死に頷いて、マルバスは終に耐え切れず床に転がり、腹を抱え尚も笑い声を響かせる。
青年にとっては、其れは不愉快な事だ。笑われる事も、思い出せない事も。何もかもが。
イライラとして、オークで出来たテーブルを軽く叩いた。それでも怒りは抑えられず、耐え切れなくなって、青年は転がっているマルバスの後頭部に蹴りをくれてやった。
行き成りの攻撃に反応出来ず、マルバスはぎゅぅ、と鳴いて頭を抑える。良い様だ、と青年は頭の隅で考えた。
最早彼の頭の中には、反省だとか、慎みだとか、他人を思いやるだとか、そう言った感情は無かった。
在るのは只、酷く傷つけられたような胸の痛みと、マルバスを思い出せない遣る瀬無さともどかしさ、そしてそれらから派生した訳の判らない怒りだけだ。
一方でマルバスは、行き成りの攻撃の衝撃から立ち直ろうとしている最中で、兎に角その頭の中にあったのは、俺が何をしたのだろう、だった。
お互いが自身の事を棚に上げている。青年がマルバスを思い出せないのは、自身の外に関する関心が無いからなのだし、マルバスが蹴られたのは、青年の気持ちを汲み取るよりも自身の感情を優先させてしまったからだ。
そしてお互いがお互いを睨むようにして、立ち上がった。
「何で思い出してくれないンすかね、ホント。憶えてくれるようにって、結構アピールしてたのに。」
「其れを言うなら、何故御前は私の内面を考えていないのだ。お陰で苛立って仕方が無い。」
「それなら忘れられた俺の気持ちも判ってくれッす!」
「ならば私の記憶を呼び戻せるような事でもしたら如何だ、嗚呼腹立たしい!」
「じゃあ、今から思い出せるようにするッす!目を閉じるッす!!」
其処で素直に眼を閉じてしまう可愛らしさが、青年にはあった。もしも其れが無かったら、この話はもっと湾曲していたかも知れない。
眼を閉じた青年が感じたのは、唇に灯る生暖かい感触。
直ぐには其れが何だかは判断出来ず、それ故に青年はその後の行為に対しての防御をとる事が出来なかった。
身体を抱き抱えられた感触が、服を通して身体全体を刺激した。其れから悟る。これらの事を。
思わず眼を見開いて叫びそうになる。しかし未だ口は動かせないし、腕を振り解こうにも相手の力が強すぎた。
少年はまるで何度もそうした様に、眼を瞑り、青年の唇を噛むように接吻を繰り返す。その中に、青年は何故か懐かしさを感じる。しかし、其れが何故だかなど、まだ思い出せない。
そうする内に段々と唇が侵食されていく。貪り食う様に進入する舌は青年の同じ物に絡み、其れから口内をゆっくりと這いずり回る。
愛撫のような其れに青年の頬は高潮し、眼は潤み、宛ら少女のよう。口の中を這う、愛おしささえ感じてしまった舌が漸く透明な糸を引いて離れ、その糸は切れると顎を伝い、衣服に染みを作った。
瞬間的に、青年は前にも似たような事があったのを思い出す。
そして同時に、その時と同じように彼に全体重を預けた。顔を少年の肩に置き、両手はだらりと垂れ下がる。
顔は高潮し眼は潤んだままで、まるで今、何かの呪いが解けたかのように、青年は少年を呼んだ。
「マ、ル…バス…?」
「やっと思い出したッすか、眠り姫サン。」
にやりと意地悪な笑みを浮かべつつ、マルバスは青年の長い髪を撫でる。表情は青年には見えないが、其れはマルバスも同じ事だ。だからこそ、青年は見られない場所に顔を向けて居たかった。
泣き顔など、二度とコイツには見せたくない。
出会いは、只当ても無くその日暮らしをしていた青年が、路銀を稼ぐ為に開いていた露天での事だ。
適当に調合した毒薬やら何やらを並べて、ぼぅ、と空を見上げていた青年は、ふと視線を感じて横を振り返った。
すると其処にはライオンの耳と尻尾をつけた少年が居て、ニコニコと自分を見つめていたのだ。
「何だ御前は。買うなら買う、通り過ぎるならさっさと行け、邪魔なら声を掛けろ。」
「事務的ッすね〜…。もっと楽しく行きませンかね、ドラゴンの兄サン。」
「邪魔をするなら容赦はせんぞ、私は。」
へいへいと両手を挙げて、少年は露天に眼を向けた。どうやら何か買う気らしかった。
暫くの沈黙。品定めする少年と、また天を見上げる青年と。見た限りでは特に何も特徴も無い風景だが、実際に傍に近づいたら一瞬で気圧されるだろう、圧倒的な空気が辺りを支配していた。
少年は青年に話しかけるきっかけを探っていたし、青年は静かに空を見ていたいからさっさと少年に帰って欲しいらしく、お互いに探りあうような空気が纏わり付いていた。
そして、偶然其処を通りがかった老人が、その空気の恐ろしさに怯えて心臓発作を起こし、病院に担ぎ込まれた所為で、二人はオフィシャルから互いの事を考えるようにと、一週間の簡易住居同居謹慎を言い渡されたのだった。
勿論、外に出る事は出来ない。見張りを付けられて、軽い軟禁状態だった。
その上マルバスは「一目惚れした」と執拗に青年に迫ってきていた。その精神を理解出来ない上余り外と関わりたくない青年は常に布団の中に閉じこもっていたのだが。
しかし極度の疲労の所為で、一度だけ完全に断りきる事も出来なくなった時はあった。その時は酷く自分が惨めに思えたのだ。
その時の事は人生の汚点として、青年の脳内で完全に封印されていたのだ。
なんとも言えない事実を隠して、青年は心の均衡を図ろうとしていたのだった。勿論、其処で起こった総てを消し去って。
‡ ‡ ‡
「そんなに嫌だったンすか?」
「グランパに憧れていたからな。あのヒトのように完璧になりたかったんだ。」
彼の祖父である夜刀神は、人生で欠点と言える欠点の無いヒトだった。
それは青年の自慢の種であり追いつくべき存在であり、またコンプレックスの要因でもあった。
「だが、今は違う。今なら私はマルバスと共に居て良かったと思えるんだ。あの喧嘩だって、総ては良い思い出だ。」
「蒼は許容範囲広いッすからね…。お陰でオレも命拾いしてるンすけど。」
青年―――蒼昊は、優しく、膝を貸しているマルバスの頭を撫でた。まるで飼い猫にするように。
するとマルバスは猫科の其れを思わせる顔付きで、蒼昊に気持ちよさそうに笑みを返した。
パタパタと尻尾が床を叩く。手入れの行き届いた床は日に照らされて気持ちが良かった。
「そう言えば、結局蒼の名前知ったの、感動の再会から更に三日後だったッすね。」
感動の再会と言うか九死に一生の再会というか。思わず言ってしまいそうになって、蒼昊は口を噤んだ。変な事を言って、マルバスの機嫌を損ねたくはなかったからだ。彼は切れると手が付けられなくなる。とばっちりなどモンスターが可哀想だ。
「良いじゃないか…結局今はこうあるのだから。」
「そうッすねぇ…。」
流石に暫くはギクシャクしたが、だが、マルバスの考え方や行動、其れに素直に自分を好きと言ってくれた気持ちに触れていると、段々と彼に引かれていく蒼昊の姿があった。
そんな気持ちに戸惑いもしたが、オーナー達の助言もあり、今ではお互いに思い合う仲にまで成れたのだ。
オーナー達にも感謝したかった。色々な考え方と気持ちが在るのを教えてくれた彼女達に。
けれど今は、まるでダムのように溜まり切ったこの気持ちを、ゆっくりと相手に伝えたい
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こんにちはこんばんは、雷さんです。
今回のは我がサイト最強ラヴラヴカポーの二人、マルバスと蒼昊の出会い編なのです。
取り敢えず書いてて楽しかったですが、しかしこの二人のシリアス話だと、高確率で18禁に成るので制御が難しいです…。今回だって頑張って抑えたんだいっ!(え
取り敢えず蒼昊は『一般的な付き合い』の考え方を持っていて、マルバスは『自由恋愛推奨』的な考えの持ち主だったのですよ。
…でも絶対最初は蒼昊の事を女だと思ってたと思うよマル坊。
今回のssのイメージ的には『ビターチョコレート』(だったかな)って言う映画のお話をモデルにして書きました。知ってるかな、同性愛の事について考えさせてくれる映画なんですけど…。俺は見てませんが、話なら聞いたことがあったのです。
ちゃんとそんな感じに沿ってたら良いですね(超絶希望的観測
因みにオフィシャルの訳判らん考えは大概いっちが決めてます。
オフィシャルの規則とかが出たら、是はまともだから違う、とか、是はいっちが決めたに違いない!とか考えて読むと良いかもしれません。
そしてそっと訊いてみても良いかもしれません。(何で
そして考えてくれても良いかもしれまs(強制送還
ではでは、このお話が少しでも皆様に受け入れられたらな、と思います。
2005.8/4 脱稿
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